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阿部誠治さん(イタリアワインと食材 阿部)に聞く!
「イタリアワインの魅力・楽しみをどう伝えるか?」

 レストランなど飲食店で働き、日々イタリアワインに触れる現場にいらっしゃる皆さんは、「お客様にどのようにその魅力を伝えるか?どのように楽しんでいただくか?」というミッションを抱えているのではないでしょうか。

 私自身のことを告白すると、イタリアワインの深すぎる世界に気負ってしまっていた節があります。でも本当はただ純粋に楽しくその魅力に触れ、伝えていきたい……

 そんな悶々とした気持ちを打開したく、意を決して(!?)井の頭公園の畔に佇む「イタリアワインと食材 阿部」へ伺いました。

 言わずと知れたイタリアワイン使い・阿部誠治さん。
 長年の経験で培われたワインへの深い洞察とユニークな視点は唯一無二。ワインをいかにして飲む人へ届けるかという並々ならぬ探求心には度々驚かされます。

 その阿部さんが今回のインタヴューでひたすら繰り返した言葉が「楽しめよ」でした。果たしてその真意とは? そしてそんな阿部さんの根源と目指すものは何なのか?

 今回は、イタリアワインに触れる皆さんへ、「ワインをいかに心から楽しみ、その魅力を伝えていくか」のヒントとなるであろう、阿部さんの視点と言葉をお届けしたいと思います。

 どうぞご覧ください!

1)イタリアワイン使いへの道 ―コック志望の頃~故・内藤和雄さんとの出会い

阿部誠治さん ご経歴
フォーシーズンズホテル椿山荘東京「イル・テアトロ」でシェフソムリエを務めたのち、恵比寿「バール&エノテカインプリチト」「オステリア スプレンディド」のディレットーレを経て、2014年「イタリアワインと食材 阿部」をオープン。

 

――まずは阿部さんの半生について伺います。イタリアワインと出合ったのはいつ頃でしたか?

 調理師学校時代にアルバイトしていた店ですね。当時からワインには興味を持っていました。将来はワインもわかる料理人になりたいと思うようになって、専門学校で料理を学びながらイタリア料理店で働いていました。ただ、イタリア料理って、調理に瞬発力が求められるんですけど、そのあたりに難しさを感じて、サービスマンになったんです。

――料理人からサービスマンへの転身だったのですね。

 コックになれなかった悔しさはありつつも、サービスのおもしろさも感じられるようになった頃に出会ったのが、内藤和雄さんでした。

 内藤さんのセミナーを手伝うようになって衝撃を受けたのが、ソムリエのコントロールによってワインの印象がまったく別モノに変わるということ。これまでホテルのレストランでも経験を積み、自分ではそれなりに扱えていたと思っていたけど、まだまだだったんだと気づかされました。

 例えば、同じ譜面を見ても、演奏する人のスタンスによって音の印象が違うように、内藤さんの注ぐワインには、生産者の深い意図を汲み取り、オーディエンスに何をどう感じてもらうかにまで、思慮が及んでいたんですよね。

――内藤さんのワインに向き合う姿勢に、感銘を受けたのですね。内藤さんから学んだことで、特に阿部さんの心に残っているのはなんですか?

 一言一句正確じゃないかもしれませんが、内藤さんが「イタリアワインは、すべての価値を肯定しろ。ソムリエはワインを評価する仕事じゃない」とおっしゃっていました。それが印象に残っています。

 同じ店に立つことはありませんでしたが、内藤さんの姿勢を見て、一杯のグラスの中に、自分なりの美意識や哲学を込めて表現したい、正しい演奏以上に、自分の演奏をしたいと思うようになりました。

――内藤さんの背中を見て、阿部さんはイタリアワインの世界へ歩みを深めていったのですね。

 

2)イタリアワインの魅力とは? ―派手と雑の入り混じるおもしろさ

▲「こんなワインを……」と相談すれば、陳列棚以外からもベストな一本を探して提案してくれる。

――これまで、ホテル、レストラン、そして個人経営の小売店へと阿部さん自身の働く環境が変化するにつれて、扱うワインの幅も広がったということですが、そんな阿部さんにとって、イタリアワインの魅力とはズバリどんなことろでしょうか?

 全ての可能性をほったらかしにしているところですね。

 ストリートなものからラグジュアリーなもの、伝統的なものからモダンなものまで、色々あるところ。例えば、数千ユーロもするコース料理を食べた次の日には、ランプレドットとワイン一杯で9ユーロくらいのユルい食事が欲しくなるのがリアルな感覚だと思うんです。そういう派手なものと雑なものが、入り混じって日常としてある。フランスワインは明確な体系があるからわかりやすいけど、イタリアワインのようなこういうおもしろさはあまりないかな。

――たしかに。ワインを学ぶ人にとってはイタリアワインの混沌さが困惑のもとだったりしますが、イタリアワインを好きな人にとってはそこがたまらない部分だったりしますね。

 9月に開催したピノッキオ岩本彬さんのイタリア郷土菓子フェスタの打ち上げでこんなことがありました。リコッタチーズが入ってた空きカップに、ピエモンテのバックインボックスのワインを注いで飲んでみたら、びっくりするほどうまくて。カップの縁の口当たり加減が絶妙だからかね~って言って、みんなでカップで飲んで盛り上がったんですよ。

 ワインはワイングラスで飲まなくてはいけない、っていう固定観念はおもしろくない。遊びから生まれるおいしさとか楽しさが、もっとあってもいいんですよ!

 

3)ワインの個性の捉え方 ―全体を俯瞰すれば個性が見えてくる

▲阿部さんの「好き」が所狭しと溢れる店内。

――ワイン一本一本の個性を理解することはワインを扱う人にとって大事な仕事だと思うのですが、阿部さんはワインの個性をどのように捉えていますか?

 大きく3段階で見ていきます。

 まずはじめに、品種・ロケーション・ヴィンテージ(作柄のみならずどの程度の経年か)についての情報をインプットします。同じ原産地呼称の銘柄でも、ロケーションによって結構違いがありますよね。次に、基準となるメジャーな生産者と比べて、造りのスタイル(栽培や醸造など)はどうか、価格はどうかを見ます。最後に、生産者のワインに対する意気込みであったり、何を表現したいのか?というのを考えていきます。

 一つの生産者やワインを深堀りすることも大切ですが、全体を俯瞰してみることで、そのワインのおもしろさが見えますよ。

――ある種マーケティング的な視点が肝なのですね。そのワインが全体のなかのどのポジションにあるかわかると、自ずと個性の輪郭が見えてくるということですね。

 そうです。例えるならこれは、魚をさばいて寿司のネタにするような作業なんです。産地がどこで、どのように育って、どんな状態なのかを見極める。ここから、どう握ってお客さんに提供するかが寿司職人の感性ですし、顧客にとっての体験の価値なのかと。ソムリエの役割はこの部分だと思います。

 

4)ワインをどう選ぶか? ―相手の価値観に沿って流れを作る

▲阿部さんの掲げる“黄金体験”とは「インフルエンス。その人の価値観が動くこと」その日の気分を伝えて阿部さんのチョイスに身を委ねてみよう。

――阿部さんのお店には初心者さんから熱烈なワインラバーの方まで、さまざまなお客さんが来られると思うのですが、おすすめするワインはどのように選んでいますか?

 場の「起承転結」を意識して選んでいます。まずは、その人を解析して、その人が「かっこいい」と思うであろう価値観を知ることから始めます。普段どんなところで遊んで、どんなものを食べて、何に興味を持っているのか。今日はどんな気分になりたいのか。
 この一連の流れを楽しんでもらえるようなチョイスをしていくんです。

 銀座の高級レストランで夜景を見ながらディナーをするのが良いという人もいれば、高円寺あたりでラーメンすする気軽さがハッピーみたいな人もいるでしょ。

――その人が好む傾向と、今何を望んでいるかに沿うように、ということですね。

 そうです。だから、お客さんには求めてることはどんどん投げかけてもらいたい。それならこうやって返してみようかな……と。そうやって対話するのが、またおもしろかったりするんです。こっちが一方的にすすめるだけではつまらないんです。知的好奇心のフィードバックが欲しいんですよ。それが僕自身の経験値にもつながるわけですから。

 

5)ワインの魅力を感じてもらうための伝え方 ―感覚を想像してもらう

「気づいてくれるかな?」という小さな仕掛けをちりばめたある意味茶室のような店。「それを見つけて楽しんでもらえたら嬉しい!」と阿部さん。

――さまざまなお客さんにワインの魅力を感じてもらうために、伝える上で心がけていることはありますか?

 この店には初心者の人からプロの方マニアの方まで様々な人が訪れるので、相手にどう言ったら伝わるか?を常に考えて磨き続けています。

 大事なことは、ワインの味わいだけでなく、ワインのもたらす感覚を想像してもらうこと。ワインの味わいとその人の感性を結びつけるために"例え"のリードをたくさん使います。

 例えば、樽熟成のリッチで濃厚な味わいの白ワインを「ハーゲンダッツのバニラを食べた時の至福」のように例えれば、初心者の方でもイメージしやすいですよね。

――確かに! 先ほどからおもしろい例え話をたくさん出していただきましたが、それはまさに阿部さんが磨き続けてきたものだったのですね。阿部さんとお店が10年近くも愛され続けてきた理由はこんなところにあるのかもしれませんね。

 ここはグアムの射撃場のような場所でもあって。玄人のようなマニアから観光で来た若い子まで、色々な人が来る。マニアが競技用の拳銃を試す横で、若い子が「わ~おもしろい!」とそれが特殊部隊用の機材と知らずにはしゃぐ。そんな、ワインというものを、安全な環境で自由に遊びまくれる場所でありたいんですよね!

――例えが刺激的です(笑)でもよくわかります! 私いつもここに来るときはドキドキするのですが、もっと力を抜いて来ても受け入れていただけそうでほっとしました。

 

6)若きイタリアワイン使いの皆さんへ ―もっと遊べ!

▲遊び心が大事!

――最後になりますが、若いイタリアワイン使いの皆さんに伝えたいことはありますか?

 そうですね……。偉そうなことは全然言えませんが、これからもイタリアワインを遊び倒す姿を見せて行きたいです。イタリアワインを扱って25年、ずっと遊び続けられています。そのためには試行錯誤が大事。こうでなきゃいけない、というのは無い。だから、君たちももっと遊ぼうぜ!! って言いたいです。

――お話し伺い、気持ちが軽くなりました。難しく考えすぎず、私なりにできる楽しみ方で、これからもイタリアワインと戯れていきたいと思います! 本日は貴重なお話し、本当にありがとうございました!!

 

阿部さんの言葉をヒントに、イタリアワインとポジティブに向き合う気持ちをより高めていただければ嬉しい限りです。最後までご覧いただきありがとうございました。

 

(取材・文:宮丸明香)

イタリアワインと食材 阿部
ジャンル :ワインバー&ショップ
TEL:0422-29-9106
住所:〒181-0001 東京都三鷹市井の頭3-31-1 井の頭レジデンス1階
営業時間:月~金 17:00~23:30(L.o.23:00)
     土 15:00~23:30(L.o.23:00)
休日:日・月曜定休
URL:https://italiawineabe.jp/

※ご利用の際はお店の公式情報をご確認ください。