オットーネ通信(第24回)「ミラドゥイ」の名に込められた歴史へのオマージュと曾祖母の物語
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秋もすっかり深まり、だんだんと温もりが恋しい季節になりましたね。
この時期にいただきたいのが樽をきかせた白ワイン。
しっかりとした厚みを感じる香り、口当たり、コクが、この季節に食べたくなるバターやオイルをたっぷり使った料理によくマッチします。単体でも飲み応えがあり、秋の夜長のお供にもぴったり。
夏に飲みたくなるキリッと冷やした爽やかな白ワインとはまた違った魅力があります。
今日はまさに今この時期に楽しみたい白×樽のワインをご紹介します。
Mario Costa(マリオ・コスタ)社
(ロエロ アルネイズ ミラドゥイ)
このワイン、5月に入荷して以来、純粋においしい!と思いながら何度もいただいていた一本なのですが、今回改めて当主のルカさんに話を伺ったところ、「ミラドゥイ」というネーミングの裏には、ピエモンテ方言を軸とした奥深いエピソードが存在しているということを知りました。
ミラドゥイ=1200 という名が表しているものとは?
▲ © 2021 CONSORZIO TUTELA ROERO より
「ミラドゥイ」という言葉はピエモンテ方言で、直訳すると「1200」の意味。
その意味をより深く理解するために、まず初めにピエモンテの方言について述べておきたいと思います。
ピエモンテ方言は、イタリアの記憶の歴史と言語遺産であり、その起源は12世紀に遡ると言われています。 数世紀に渡って知識人はピエモンテの言葉の論理性に統一とひとつの形を与えようと試みてきました。それでも今現在、コムーネ(自治体)の間にはさまざまな違い(中には全く異なる違い)があるものも存在し続けています。
「ミラドゥイ」は次のいくつかの事柄と紐付けられ、ワインの名前として選ばれました。
まず一つ目は、生産本数を指す数字であるということ。ミラドゥイは優良ヴィンテージにのみ1200本限定生産されています。
二つ目は、1200年前後におこった文化的な転換期(「12世紀ルネサンス」と呼ばれる)から着想を得ているということ。この時代は十字軍遠征によってビザンツやイスラムの文化に接し、イスラム経由でギリシアの文化・哲学がヨーロッパに多く流入した時代でもあり、人々がアラビア哲学や、サラディンやアヴェロエといった人物などを敬い、異なる文化のものを肯定的にとらえたことを意味しています。
これは私の見解ではありますが、この12世紀ルネサンスの革命的なできごとと、このあとにご紹介する曾祖母ジュゼッピーナがコスタ家にもたらした影響をどことなく重ねているかのように感じられます。
曾祖母の生まれた土地と人生を伝えるワイン
「私たちはこのワインのネーミングにピエモンテ語の異形を使うことで、私たちがどこからきたのかを記憶に留め、曾祖母ジュゼッピーナ・ペラッツァの出生地に思いを馳せることにしたのです」とルカさん。
数字の2「due」を表す際、ロエロの自治体の中ではピエモンテ方言「doi」を用います。しかしロエロの丘陵地帯を降りてアスティ県方面へと向かう途中のクーネオ県を越えない地域では「dui」を用いるそうです。
曾祖母であるジュゼッピーナさんが生まれたのは、まさにアスティ県との境界に位置する地域、サンロッコ・ディ・モンタのトゥッチという集落でした。
「ミラドイ」ではなく、「ミラドゥイ」と名付けることで、ジュゼッピーナさんを生んだ土地と、彼女の人生そのものに対する親しみと敬意をより深く表現しているように思います。
ジョゼッピーナさんはどんな方だったのでしょうか。
ルカさんはこう続けました。
「一人の男とその家族の偉大さはその傍らにいる女性に負うところが大きいように思います。曾祖父のジュゼッペは、彼女の賢明さのおかげでその幸運を手にしました」
ジョゼッピーナさんは、家事、畑仕事、家計の管理などに加えて、資産を増やすための土地を購入する際には、公証人のところへ出向き公的な手続きを行うよう、早い段階から彼女の夫にアドバイスをしていたそうです。(今となっては当然のことですが、戦後間もないころは公証人に支払う費用を出し渋って手続きを先送りにする人が多かったのだとか) 彼女の計らいが、代々続くコスタ家の礎を築いたといっても過言ではありません。
しかし残念ながら、ジョゼッピーナさんは51歳という若さでこの世を去ってしまいます。脳虚血でした。その当時家族は人生の案内人を失い、幹の支えのない枝のようになったと感じたそうです。
「ミラドゥイ」は、カナーレ・ダルバのクリュ「ペチェット」の畑から生まれます。曾祖父母が1952年に結婚してすぐに購入した初期の区画です。南東向きの劇場型をしたこの畑は、長期熟成型の赤ワイン用に向いていますが、あえてそこに伝統的なアルネイズを植えることにしたのです。
緻密に磨き上げられた果実味と樽のもたらす豊かな味わい
ブドウは9月中旬に収穫後、コールドマセレーションを24時間、その後すぐに搾汁しステンレスタンクに移されます。3日後、果汁(モスト)は3つの225ℓのアリエ産バリック(1回及び2回使用済みのもの)に移し替えられ、引き続き発酵、その後翌夏まで熟成させていきます。
6月に「ミラドゥイ」はバリックから再びステンレスタンクへ移されアッサンブラージュ。落ち着かせるために8月まで寝かされます。瓶詰めはブドウの収穫時期の前に行われ、さらに12ヶ月間瓶内で熟成させます。
色は金色を帯びたイエロー。グラスを攪拌するとその粘性を見て取ることができます。しっかりとしたボディとアルコールからくるものです。
使用するバリックは蒸気をあてて曲げた木樽を使うため、過度なロースト香はせず、果実味を損ねません。むしろ果実味は際立ち、華やかな白い花、スッと鼻に感じるシダー、バニラのような甘い香りが絶妙なバランスで融合し、素晴らしい骨格をもったワインになります。
料理との組み合わせについては、アニョロッティ(詰め物パスタ)やリゾット、ヴィテッロ・トンナート(仔牛の薄切りとツナのソース)、ゴルゴンゾーラを含めチーズの盛り合わせがおすすめ。ほかにもスペインのプルポ・ア・ラ・ガジェーガ(タコのガリシア風)やエビのフリット などと合わせても◎。やさしくも豊かな風味を引き出してくれるでしょう。
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今回は「ミラドゥイ」を深く読み解いてみました。「1200」という言葉の裏に紐づいた、歴史、土地、人々へと思いを巡らせ、想像を越えた深い世界へと誘われ、まるで小説を読んでいるかのような心に残るお話でした。マリオ・コスタの生み出すワインには、どれも温かなエピソードがあり、そこが魅力の一つだなと改めて感じます。次回のご紹介もどうぞお楽しみに。
(文:宮丸明香)
ワイナリー:マリオ・コスタ
原産:ピエモンテ州/カナーレ県
品種:ロエロ・アルネイズ100%
内容量:750ml
アルコール度数:14%
タイプ:白
参考上代:3,520円(税込)
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